2020年7月3日
先週の記事では、自衛隊を合憲とする日本政府の憲法解釈を紹介しました。
読者の皆様は、これで自衛隊は合憲であると納得されたでしょうか?
今回は、日本国憲法の成立過程から、自衛隊は合憲であることを示します。
先週の記事で納得された方もそうでない方も、是非こちらの観点からも自衛隊の合憲性をお考え下さい。
では、日本国憲法はどのような経緯で成立したのでしょうか。
これを、簡潔な年表で示します。
1945年(昭和20年)
8月14日 日本、終戦の詔書発布(ポツダム宣言受諾),ダグラス・マッカーサー、連合国最高司令官に任命
8月15日 天皇、終戦の詔勅放送(玉音放送)
8月30日 マッカーサー、厚木到着
9月2日 日本、降伏文書調印(ミズーリ号艦上)
10月4日 近衛文麿、マッカーサーを訪問(憲法改正の示唆を受ける)
10月9日 日本、幣原内閣成立
10月11日 幣原首相、マッカーサーを訪問
10月13日 幣原内閣、憲法問題調査委員会設置
10月27日 憲法問題調査委員会、第一回総会
1946年(昭和21年)
2月3日 マッカーサー、「マッカーサー・ノート」(または「マッカーサー三原則」と呼ばれる)を連合国総司令部民政局長ホイットニーに提示し、民政局で日本国憲法案(「総司令部案」または「マッカーサー草案」と呼ばれる)の作成を指示
2月13日 総司令部、「総司令部案」を日本政府に公布
2月21日 幣原首相、「総司令部案」に関してマッカーサーと質疑懇談
3月2日 松本烝治国務相ら、「総司令部案」を基礎にした改正案「三月二日案」を作成
3月4日 松本国務相ら、「三月二日案」を総司令部に持参(午前10時)、総司令部と英訳及び議論が翌5日の午後4時まで続く。
3月6日 日本政府、「憲法改正草案要綱」を発表
4月10日 日本、総選挙施行(自由党第一党)
4月17日 日本政府、「憲法改正草案」を発表
4月22日 枢密院、「憲法改正草案」の審議開始
5月22日 第一次吉田内閣成立
6月8日 枢密院、「憲法改正草案」を可決
6月20日 日本政府、「帝国憲法改正案」を衆議院へ提出
8月24日 衆議院本会議、「帝国憲法改正案」(各党派間で合意された共同修正案)を可決、貴族院に送付。
10月6日 貴族院本会議、「帝国憲法改正案」(貴族院修正案)を可決、衆議院に回付
10月7日 衆議院本会議、「帝国憲法改正案」を可決
10月29日 枢密院本会議、「帝国憲法改正案」を可決
11月3日 「日本国憲法」公布
1947年(昭和22年)
5月3日 「日本国憲法」施行
ポイントは、「憲法改正草案」の前に「総司令部案」(英文)があり、さらにその前にマッカーサー・ノート(英文)があることです。ここに、憲法9条2項の意味を解読する重要な手掛かりが隠されています。
さて、「マッカーサー・ノート」と「総司令部案」は、もちろん英文です。
このような成立経緯から、日本国憲法には日本語版と英語版があります。
日本国憲法公布の日、条文は官報に掲載されました。同時に、その英文も当時発行されていた英文官報に掲載されました。
官報に掲載されているのですから、英文日本国憲法も正式な憲法です。
つまり、英文日本国憲法は、日本国憲法を誰かが私的に英訳した憲法ではないのです。
英文日本国憲法は、その後六法全書やいろいろな条文集にも収録されていたようです。今では六法全書などの法律集には記載されていないため、知らない方も多いかと思いますが、日本国憲法には日本語版と英語版の二種類の形式があります。
さあ、いよいよ日本国憲法の成立過程から自衛隊の合憲性を考えましょう、と言いたいところですが、ここまでで少し長くなってしまったので、この議論は来週に持ち越すことと致します。ご了承ください。
本記事の最後に、英文日本国憲法第9条を掲載します。
これを読む機会はほとんど無いかと思いますので、一度読んでみるのもよいかもしれません。
Article 9. Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
本記事の参考文献
島村力(2001)『英語で日本国憲法を読む』,グラフ社.
西修(2012)『図説 日本国憲法の誕生』,河出書房新社.
学術文庫編集部(2013)『新装版 日本国憲法』,講談社
皇紀2680年7月3日
コメントをお書きください