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憲法9条と自衛隊(3)自衛隊法 (Ⅰ)実際には日本を守れない自衛隊

2020年9月25日

 

お久しぶりです。

一カ月ぶりの「ロゴスの間」です。 

 

前回の記事「憲法9条と自衛隊(2)国の交戦権は、これを認めない (Ⅳ)『マッカーサー・ノート』の分析」の最後に書いたように、

 

 

これまで論じてきたように、憲法上は、自衛隊は日本国及び日本国民を守ることができるはずです。

しかし、現在の自衛隊(というより『自衛隊法』)では、実際上は日本国及び日本国民をほとんど守ることができません。

 

 

今回は、自衛隊法を読むことで、これを皆さんと考えます。

早速、「自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号) 施行日:平成三十年四月十三日、最終更新:令和元年十二月四日公布(令和元年法律第六十三号)改正」を読んでみましょう。

 

と言っても、自衛隊法を全文読むわけではありません。私も全文を読んだことはありません。

ここでは、私が特に問題と考える条文だけを抜き出します。

 

まずは自衛隊法第七十六条。

 

 

(防衛出動)

第七十六条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

 

一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態

二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

 

2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。

 

 

ポイントは、

 

「自衛隊は、内閣総理大臣が命令しなければ出動できない」

 

ことです。

防衛省のウェブサイトには、より簡潔な説明が書かれています。

 

 

 防衛省・自衛隊 (防衛出動) 第七十六条

 

内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃(外部からの武力攻撃のおそれのある場合を含む。)に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合には、国会の承認(衆議院が解散されているときは、日本国憲法第五十四条 に規定する緊急集会による参議院の承認。以下本項及び次項において同じ。)を得て、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。ただし、特に緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで出動を命ずることができる。

 

 

…、えっ…?

いや、あの、内閣総理大臣と自衛隊の通信が断たれたらどーすんの?

 

通信設備が物理的に破壊される場合もあるだろうし、サイバー攻撃を受ける場合も考えられます(攻撃は国外からとは限りません)。

総理大臣の身に危機が及ぶことも考えられます。

 

日本のどこでどれほど危機が迫っていようと、自衛隊は総理大臣からの命令を待たなければなりません。

刻一刻と変わる危機の状況は、瞬時に正しく総理大臣に伝えられるでしょうか?

そして、総理大臣は、瞬時に正しく危機の状況を判断し、必要なタイミングで防衛出動を命令することができるでしょうか?

 

確かに日本政府からの命令を最優先すべきだとは思いますが、日本国及び日本国民に対する危機が目前に迫っているのであれば、自衛隊には独自の判断で出動していただきたいものです。

自衛隊の行動が適切であったかどうかは、状況終了後に国会で審議されればよいでしょう。

 

続いて、第八十四条。

 

 

(領空侵犯に対する措置)

第八十四条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

 

 

…、えっ…?

外国の航空機が日本の領空を侵犯しても、自衛隊はそれを着陸または退去させることしかできないの?

しかも防衛大臣が命令しないとそれすらできないとは。

もし他国の爆撃機が日本の領空を侵犯したら、その時点で戦争は始まってると思うのですが…。

 

ただし、防衛出動の場合は、さすがに武力行使も可能なようです。

 

 

(防衛出動時の武力行使)

第八十八条 第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。

2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。

 

 

まあ、自衛隊が防衛出動を命じられたら、の話ですが。

命令が遅れるようなことがあれば、もちろん、…、ですね。

 

こういうわけなので、自衛隊員が防衛出動を命じられることなく日本の領空を侵犯した他国の航空機を撃ち落とせば、その航空機が日本の上空で何をしていたとしても、その自衛隊員は殺人容疑で逮捕されます(さすがに正当防衛が適用されるとは思いますが)。

 

今度は第八十二条と八十二条の二。

 

 

(海上における警備行動)

第八十二条 防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。

 

(海賊対処行動)

第八十二条の二 防衛大臣は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(平成二十一年法律第五十五号)の定めるところにより、自衛隊の部隊による海賊対処行動を行わせることができる。

 

 

自衛隊法には、領海侵犯に対する措置を定めた条文がありません。

よって、防衛出動が命じられない限り、他国の艦船が日本の領海を侵犯しても、自衛隊にできることは海上警備行動と海賊対処行動だけです。そして、それすらも、防衛大臣の命令が無ければできません。

 

この場合も、領空侵犯の場合と同じように、自衛隊に防衛出動が命令されなければ、遅れてしまったら、という問題が考えられることは言うまでもありません。

 

どうでしょうか。

これだけを読んでみても、自衛隊は日本を守ることができないと考えられるのではないでしょうか。

 

自衛隊法は、私がインターネットで読めるように、広く無料で公開されています(当たり前です)。

つまり、日本を攻撃しようと考える誰かも、自衛隊法を読むことになります。

 

もし私が日本を攻撃しようとする外国の誰かだとしたら、真っ先に自衛隊と総理大臣の通信の遮断を狙います。

これで、自衛隊法上は、自衛隊は一切武力行使ができなくなります。すなわち、自衛隊は無力になります。

 

ですから、憲法上は日本を守ることができる自衛隊は、実際には日本を守ることができません。

(まあ、自衛隊が超法規で活動すれば話は別ですが、それはそれで…)

 

次回の「ロゴスの間」では、自衛隊に日本を守っていただくために、私たちは自衛隊法をどのように改正すべきかを考えます。

 

次回もどうぞご期待ください。お楽しみに。

 

 

皇紀2680年9月25日