「需要>供給」型インフレ期の売りオペの愚

2023年12月13日

 

本日はなるべく端的に。

 

拙稿「中央政府の財政が健全な一国の要件」(Requirements for a Country with a Fiscally Sound Central Government)では、中央銀行の金融政策を全否定しています。

当然、「需要>供給」型インフレ(ディマンド・プル・インフレーション)期の売りオペも認めません。

 

なぜでしょうか。

まずは、そもそも「需要>供給」型インフレ期の売りオペとは何かを解説します。

 

拙稿では、考察で次のように論じた箇所があります。

 

 

4.1中央政府財政とインフレーション

 中央政府の支出によって、国民の手取りは増え得る。中央政府は、中央議会が立法した予算を執行する。よって、中央政府が支出の予算を確実に執行できるならば、中央議会は立法によって国民の手取りを増やすことができる。

 国民の手取りが増えると、国民の需要が増える。国民の需要が増えると、企業は供給を増やす、もしくは商品の価格を上げる。よって、国民の手取りが増えると、企業の利益が増える。

 企業の利益が増えると、企業は賃金水準を上げる。中央議会は、立法によって公務員の給料と高齢者に対する年金支給額を増やすことができる。これらにより、国民の手取りがさらに増える。

 すなわち、中央政府が支出の予算を確実に執行できるならば、中央議会は国民の手取りを増やすことができる。国民の手取りが増えると、企業の利益が増える。企業の利益が増えると、国民の手取りがさらに増える。これが繰り返される。

 したがって、中央政府の財政が健全な国家では、ある時点で中央議会が国民の手取りを増やすと、国民の手取りが増え続けるインフレーション・スパイラルが発生し、常態化する。(後略)

 

 

この記事で想定するインフレとは、このようなインフレです。

さて、世に出回っている経済学の教科書や経済の解説本を読むと、おそらく「全て」の本に、

 

 

「このようなインフレ期には、中央銀行が金融引き締めを行い、国内の金利を引き上げることによって物価の高騰を抑制します。よって、中央銀行は『物価の番人』と呼ばれます。」

 

 

という内容が書かれているでしょう。

「金融引き締め」とは、主に「売りオペレーション」(売りオペ)とよばれる金融政策の一手段のことです。具体的には、中央銀行が、所有する国債を国内の金融機関向けに売却する行為を指します。市場原理により、中央銀行が国債を売ろうとすればするほど、国債市場では国債の価格が下がり、金利は高くなります。

 

では、これによって、なぜ国内の金利は上昇するのでしょうか?

売りオペには、国内の銀行に対して次のような効果があります。

 

・銀行の資金が高金利の(つまり利益が大きい)国債市場に流れる。よって、銀行は、民間に貸し出す資金が不足する。

・銀行は、低金利で資金を運用するくらいなら、金利が高い国債を買おうとする。よって、銀行は、わざわざ低金利で民間に資金を貸したいとは思わない。

 

ゆえに、中央銀行が売りオペをするほど、銀行は企業への融資や家計への貸し出し(自動車ローンや住宅ローンなど)金利を引き上げる、と予想されます。

 

国内の金利が上がるほど、企業は設備投資を控える、家計も投資を控える。すなわち、中央銀行は、売りオペによって企業の設備投資と家計の投資需要を抑えることができる。このような効果によって、インフレ期は中央銀行が金融を引き締めることで景気の過熱を抑え、物価を安定化できる。これが、経済学の常識です。

 

ところが、これには重大な問題があります。

 

私にとっては、拙稿で論じた「中央政府の財政が健全な一国」の必要条件が満たされないという点から、売りオペを認めることはできません。

 

しかし、インフレ期の売りオペが望ましくない理由として、決定的なもう一点が挙げられます。

それは、まさに、売りオペは家計や企業の投資を抑制してしまうからです。

 

先に述べたように、国民の需要が増えると、企業は供給を増やす、もしくは商品の価格を上げます。

企業が供給を増やすことで、増えた国民の需要が満たされるならば、満たされる国民にとっては良いことです。

しかし、企業の供給力にも限界があります。それでも商品に対する国民の需要が増えるならば、企業は商品の価格を上げることで、商品に対する需要を減らすと同時に利益を増やそうとします。

では、どうすれば商品に対するより多くの需要が供給で満たされるでしょうか?企業にとっては、どうすればより多くの商品を供給して利益をさらに増やすことができるでしょうか?

 

そのために、企業による設備投資が必要です。企業は設備を増大することで、商品の生産力を大きくすることができます。それに伴い、企業は雇用も増やすでしょう。

つまり、インフレ期こそ、企業の設備投資は望ましいのです。企業が設備投資を行い、商品の生産力を増大し、増えた国民の需要を供給で満たす。これが、「経済」です。経済学の常識は、この真逆です。

 

また、家計の投資を抑制することも望ましくありません。家計が自動車を購入しようとしてもそれを抑制する、住宅を購入しようとしてもそれを抑制する、それが「経済」でしょうか?家計の投資需要をわざわざ減らして、何が経済でしょうか?

家計が、欲しいと望む自動車や住宅を購入して需要が満たされる。これが、「経済」です。

 

したがって、インフレ期の売りオペは愚策です。これは、不適切どころか「経済」とは真逆の政策だからです。残念ながら、これが経済学です。

 

国民の需要が増え、企業は設備投資を行い、雇用と供給を増やし、増えた国民の需要が供給で満たされる。これが、一国の経済成長です。

 

ここで、「ではインフレを放置していいのか?」という疑問を抱く方がいらっしゃるかと思います。

これ(インフレ対策)については、拙稿「中央政府の財政が健全な一国の要件」(Requirements for a Country with a Fiscally Sound Central Government)と拙著「ゼロから経済を考える」で既に論じております。ご興味を持たれた方にご一読いただければ幸いです。

 

今回の「ロゴスの間」も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

皇紀2683年12月13日